スタートアップにおける、マルチタスクの落とし穴

お世話になっております。
IDOMの直人です。

先日、「スタートアップの基本戦略 (NORELの場合)」みたいな香ばしいエントリをアップしました。NORELユーザー向けではない、チームやステークホルダー向け広報的な内容を出すのはどうなんだろう、とも思ったのですが、トライアルとしてやってます。

同エントリの中で、こんなことを書きました。

最近まで、自分で広告運用をしていたので目線が戦術レベルまで下がっていたと反省しました。NORELのようなスタートアップでは運営のごく少人数で意思決定していかなれければならないため、戦略的視点と戦術的視点をそれぞれ混同しないように意識しながら、試行錯誤を続けていかないとな、と気を引き締めています 。

これ結構、危険なレベルだったと反省してまして、気づいた時には早急に広告運用をチーム内のメンバーに渡すと共に、意識的にパートナーとの会話や経営層とのすり合わせを増やしました。

何がそれほど「危険」だと感じたのか

リスティング運用の当初目的

元々、広告 (もっぱらリスティング広告なので、以降その前提で書きます) の運用はランディング後KPIのチューニングを主な目的として始めていました。NORELは新しいモデルである上に、説明が必要な商材で、かつ単価も高い。世の中の認知・理解が進むまではROAS はまず合わないだろうと思っていました。

ランディング後のKPIチューニングというのは、広告メッセージとランディングページで説明する内容の整合性チェック、初見ユーザーの理解は想定どおり進んだのか、会員登録や予約フォームなど、初期リリース仮説から粗々のままで放置されているフローの改善、などなど。

KPIチューニングにはそれなりの量のトラフィックがないと改善施策の効果を確認できないので、まずはコントロール可能な安いトラフィックが必要だった。

これが当初のリスティング運用目的でした。

自前でリスティングを回すまで

リスティングの運用は、当初代理店さんにお願いしていました。ごくわずかな予算でスタート。

IDOMの本体はインターネット広告で70億くらいかな、回しているので代理店手数料も安いんです。通常、百万円程度のボリュームだと代理店のフィーとして30%くらい取られるのですが、そこが破格にやすかった。

なのでまあ、お金のないスタートアップとしては、代理店さんにお願いするのが自然な判断でした。

 

自分で運用を巻き取るまで

代理店さんは、少ない予算のNOREL広告運用を快く、スピーディーに対応してくださいました。運用メンバーのいなかったNORELにとってはこれは非常にありがたかった。今でも感謝しきれません。

一方で、運用の方はなかなか思ったようなペースで数値の改善が進まない。これは当然で、代理店さんの手数料率が低いので人をはれないんですよね。

なので、IDOMに常駐 (くらいしょっちゅう見かける) してくれているGoogleさんの手を借りながら自分で回すことにしました。私はGREE時代にサプライサイドの広告運用も片手間でやっていたため、基本的な知識はありました。

キャンペーン数を減らし、広告グループを需要ごとに切り直し、開発チームでブレストしながら広告クリエイティブを作りなおして、運用開始するまでで1週間くらい。

2週間くらいで成果は出ました。CPCで40%程度、コストが下がったのです。

 

水は低きに流れる

そこまではよかったのですが、思惑通りトラフィックの獲得効率が改善したことで調子に載ってしまった。運用型広告が楽しくなってしまったのです。

毎日のように管理画面をチェックし、入札単価を調整したり、クリエイティブを追加したり。CPCが50円を切り、適用効果が逓減しても事業責任者でありながら広告のチューニングをずるずると続けていました (当然、他の仕事も進めていたのですが)。

まずいことに

その後2ヶ月くらいたったころでしょうか。社長との事業戦略会議で、「短期施策をネットに寄せすぎ」と一刀両断され、失敗に気づきます。

他にやる人がいなかったから、というきっかけではあったのですが、自分が広告運用を続けることで「失敗したな」と思ったのは以下の点です。

  • 自分のマインドシェアに占める、ROASの割合が大きくなる
  • とりやすいトラフィックを取りに行ってしまう
  • 事業戦略が顕在ニーズに対して敏感になる

 

自分のマインドシェアに占める、ROASの割合が大きくなる

当初、そう簡単にCV (成約コンバージョン) は出ないだろうな、と思って取り掛かったのですが、予想に反してCVが出てしまった。「案外、可能性あるかも」と思ったんですね。

そうすると、KPIチューニングがゲームのように楽しく思えてくる。

表示順位やimpを調整したり、クリエイティブを工夫したりすることで数字を上げるために色々腐心するようになる。

当然、事業責任者がこんな戦術レベルにいつまでもかかりきりになってはだめですよね。戦略の幅は狭くなってしまいます。

 

とりやすいトラフィックを取りに行ってしまう

広告運用をしていると検索ボリュームが多い需要、CTRが高いクリエイティブが特定できてきて、徐々に配信比率やクリエイティブのワーディングがそちらに寄っていきます。

CVの低い事業ではこれがかなり危なくて、ROAS運用 (成約獲得の費用対効果をKPIにする) に到達するような広告予算が割けないため、CPA運用 (中間CVの達成率をKPIにする) や CPC チューニングに終始してしまう。

つまり、成約に紐付かない、筋の悪いチャネルに最適化してしまうミスに気づかないことになるのです (私がアホだからですけど)。

 

事業戦略が顕在ニーズに対して敏感になる

上記と関連するのですが、顧客は広告クリエイティブで判断して流入しますから、当然顕在化しているニーズの方が反応はいいです。NORELで言えば、例えば「乗り換え放題」よりは「29,800円から」みたいなワードの方が反応はよい。

ただ、代替手段でまかなえている顕在ニーズへの反応で獲得できたリードはCVしない。その場合、リードを顧客化するにはどうしたらいいのか。

顕在需要を満たすサービス、つまり「クルマ買いませんか」や「残クレで安くクルマに」のような既存の代替手段を提供してあげればよいのです。新規サービスではなくて。

これは全く持っておかしな話で、本末転倒の極地というか、新規事業をやっている意味がない。ただ、事業責任者は毎日数字に追われていますし、日々の広告運用によって十分に近視眼的になっているのでこの誤りに気づかないのです (これも私がアホだからなのですが)。

更に悪いことに、自分はサービスを「こういう方向にしよう」という際にそれなりの権限があるので、間違った判断を実行に移してしまうリスクさえあった (実際、この自分の中でねじれた無駄な問答に随分悩まされました)。

 

ともかく、気づいてよかった

まあ、そういうような状況で、社長や経営陣といった大局的な目線の方々から真っ当なご指摘をいただき、ようやく抜け出すことができたわけです。

この経験から以下のようなことを学びました。

  • 戦術の執行は、楽しくても、不安でも、だれかに任せなければならない
  • 考えていることはアウトプットし、定期的に自ら客観的に見つめる必要がある
  • 考えていることはアウトプットし、自分の中の「ねじれ」を第三者に指摘してもらう

スタートアップらしい、独善的な価値観と、それをプロダクト・マーケットフィットへ導く客観性を、高いレベルでバランスさせるというのは思っている以上に難しい。

今回の経験を通して、もう一度戦略の意義を再確認したし、同時に任せることの重要性を痛感しました。なんでもやらなきゃいけないのが責任者だけど、目線は常に高く持たないとだめだなぁ。

冒頭に書いた通り、お客さまのためにならないものをこういうところにしたためるのもどうかと思うのですが、チームに考えていることを共有し、ひいては間違った方向にプロダクトが進むのを阻止するため、たまに書いていきたいと考えています。